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Alt=第9回老舗訪問記 千葉県 受け継がれるDNA~“和未”(なごみ)の米屋~

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< あとがき >


米屋創業と日本で最初の栗羊羹(くりようかん)

米屋創業者写真
米屋創業と日本で最初の栗羊羹(くりようかん)

米屋の歴史は明治32年(1899年)、創業者・諸岡長蔵の“チャレンジ”から始まる。 諸岡長蔵は千葉県成田山新勝寺門前で米殻・雑貨を営んでいた『米屋』の長男として生まれた。
長蔵は、舟運等に替わる鉄道開通によって成田山への参拝客が急増している状況を見て、『成田詣でにきているお客様に喜んでもらえるお土産はないものか』と考え、母・なつと共に羊羹を試作したのである。
まず祝辞用に保存してあった小豆5合と、祖父の病気見舞いに頂いた貴重品の砂糖を活用。本来、羊羹(ようかん)とは、羊肉を入れたスープで、肉食を嫌った日本人は、小豆を羊肉の代わりに見立てて小豆、葛等の粉を練って蒸したものを入れて汁物として食した。これが、精進料理に取り入れられたのである。
栗羊羹は成田山新勝寺の精進料理である『栗羹』(くりかん)よりヒントを得て作り出された。今でこそ栗羊羹は一般的なお菓子であるが、この長蔵が生み出した米屋の栗羊羹こそ、日本で最初の栗羊羹なのである。この栗羊羹は瞬く間に評判となった。現在では米屋は千葉県内に30の直営店を持ち、コンビニエンスストアまで販売を拡大している。

正直いうと、私はそれまで世の中になかった栗羊羹を生み出し、消費者の間で大評判になった背景には何かもっと『努力・研究』のような泥臭いものが存在しているのかと思っていた。しかし長蔵と母なつが使ったものは、偶然家にあった砂糖と小豆、精進料理の知識といたってシンプル。この“偶然”に近いエピソードが現在の米屋を生み出したと考えるととても面白いと感じた。
諸岡家は、成田山新勝寺周辺の名主であったということで、新しいビジネスが生まれる遠因、誘因が成田山ということになる。

高く買って安く売る

米屋本店写真
米屋本店写真

『高く買って安く売る』 これは利潤を求めて商業を営む者にとって矛盾しているように見える言葉だ。しかし創業者長蔵は高く買って安く売る主義を徹底した。
『一切値引きせず』『値切る方お断り』という看板を店先に大きく掲げた。
つまり、製造コストにかかる中間手数料や金利を省き、「品質本位」で「値引きの余地がない低価格」で羊羹を売ろうとしたためである。
長蔵は後に『高く買って安く売る。これが私のやり方です。高く買えば仕入先・問屋は喜ぶ。安く売ればお客様が喜ぶ。相手を喜ばせることばかり考えてきた。』と語ったという。自分を取り巻く人々を喜ばせてこそ自分に利が返ってくると考えていたのである。

羊羹配達箱
羊羹配達箱

しかし値引きや掛売り、おまけつきなどの商いが頻繁に行われていた当時の成田山門前では、米屋の“諸岡商法”は同業者から理解されず、客からも敬遠される時期もあったようだ。しかし『高く買って安く売る』意志を曲げず、良質な羊羹を作り続けた米屋は消費者の信頼を得て、幅広く認知されるようになる。
創業から約8年経った1907年(明治40年)のことであった。

モラロジーの母

成田羊羹資料館
成田羊羹資料館

長蔵は商人としての自分のあり方だけでなく、人としての生き方に関して高い道徳観を大切にしていた。とりわけ廣池千九郎(ひろいけちくろう)博士(※注釈1)の研究に強く共感し、モラロジー(最高道徳)研究の財政援助を20年にわたり続けた。また公共福祉への寄付も継続していたこともあり、廣池博士は長蔵を『モラロジーの母』と呼び親しくしていた。

これら長蔵の信念は、現在の米屋でも脈々と受け継がれているということを私自身強く感じた。それは米屋総本店横にある羊羹資料館を見学した際、長蔵の道徳観を執筆した書物が丁寧に、そして数多く展示されていたためである。また現在代表取締役社長を務める諸岡靖彦社長にインタビューさせていただいた際も、受け継がれている米屋の信条をひとつひとつ読み上げてくださったからだ。『信用は資金より貴き無形の財産にて商売の命なり』『己に薄く他に厚く』『華実よりもまず根を肥やせ』といった言葉は、時代ごとに変化する環境の中で、米屋が伝統として大切にしてきたものを現していると感じた。

※注釈1 モラロジーの提唱者であり、法学者でもあった。

“和未”(なごみ)という字にこめられた想い

なごみの米屋
なごみの米屋

“和未”(なごみ)という漢字をご存知だろうか? おそらく初めて見た方も多いだろう。というのもこの漢字、“和”と“味”の2文字から作った造語であり、米屋のシンボルマークなのである。この“和未”には『心和むお菓子によって人の心や暮らしを豊かにし、未来を創造していく』という米屋の願いが込められている。

なごみロゴマーク

「なごみ」には次の4つの意味がこめられています。

一.心和む味の創造
人の心に触れる優しい味わい、五感に感じる味の世界の創造、という意味が込められています。
二.おいしい暮らしの演出
楽しみの食を個性豊かに演出し味のある生活を生む、という意味が込められています。
三.人と人、心と心を結ぶ
人の心を開かせる、心の交流媒体として役割を果たす、という意味が込められています。
四.豊かな未来を広げる
友情や愛情を抱き合い、豊かな未来を創造していきたい、という願いが込められています。

我々はこの「なごみ」を実践していくことによって、お客様の舌はもちろん、心も豊かにする お手伝いをさせていただきたいと考えています。 「ようかんの米屋」から「なごみの米屋」へ。味の創造の延長線上に文化の創造を見据えて、 我々はさらに幅広い世代に親しまれるお菓子づくりを目指していきます。

※「なごみの米屋」公式webサイトから抜粋

また本来この“和未”マークの背景には重の2つの重なり合う円には伝統と革新の意味が込められています』と諸岡社長。次は米屋の『革新・挑戦』にスポットを当てていきたいと思う。

時代に応じて挑戦すること

工場写真
工場写真

長い伝統や風格を持ち日本古来の和菓子ブランドをもつ米屋にとって、昭和40年以降のコンビニエンスストアへの流通網拡大は一つの挑戦だった。
『弊社のような“のれんのお菓子会社”にとってはコンビニへの出品は多少葛藤がありました。また成田山付近は参拝客で正月は猫の手も借りたいくらい忙しくなります。しかし夏になると人がいなくなる…夏向けに開発した水羊羹の製造コストを抑えるためにも、生産量を増やすことが求められました』と諸岡社長。

米屋の羊羹
米屋の羊羹

米屋では昭和35年に機械を取り入れたことで、全自動化で羊羹などのお菓子を作ることができるようになり、今では米屋の伝統ある味を幅広い地域で楽しむことができる。 『販売網を増やしても“のれんのお菓子”として米屋のステータスを維持することが大切です。そのためには量販しつつ、製品の品質を維持し、衛生面にも気をぬかないことが絶対でした』
さらに消費者ニーズの変化としては、『日持ちすること』も昔より重視されてきている。今の時代甘いお菓子は羊羹だけではないので、このニーズに対応しなければ消費者に迎え入れてもらえない。米屋では腐りにくくするために、含まれる砂糖の量を増やす(食べたときに感じる糖度は変化させないように工夫しながら)等の対処をしているという。 『企業は永続していかなければなりません。体質を改善し、目標をもち、生産性を高めるよう挑戦を日々しなければいけません』と諸岡社長は熱く語る。 伝統を守りつつ、挑戦を続ける米屋の姿が実感できた。

次の世代に望むこと

米屋諸岡社長
米屋諸岡社長

米屋を継ぐ次の世代に望むことを聴いたところ、諸岡社長ははっきりと『絶えず挑戦すること』と答えて下さった。
『豆を煮て甘くして食べるのはおそらく日本人くらいでしょう。“和菓子”や“洋菓子”といった分類にとらわれず、“日本のお菓子”という新たなカテゴライズでアジアから世界に発信していって欲しいです。』
私も思わずヨーロッパの人々が栗羊羹をデザートに食べている姿を想像し、温かい気分になった

あとがき

企業のDNA

慶應義塾大学 商学部 4年 野田 隆広

今回のインタビューを終えて私が強く感じたことは、『企業には創設時からのDNAが息づいている』ということである。米屋がそうであったように、社長が変わり、マーケット環境が変わり、消費者ニーズが変化しても、その企業がこの世に生を受けた理由や存在意義は時代を超えて継承されていることが強く実感できた。
今回は工場見学もさせて頂き、お菓子の製造過程や米屋の社員がどのような仕事をされているかを見せて頂いた。普段決してお目にかかれない光景や知らないことばかりだったのでとても感動した。 しかし、私が最も印象に残ったのは前述の米屋のDNAである。消費者だけでなく仕入れ取引先にも真心と誠意で接する姿は、真の商売をする企業を体現している。

少子高齢化や消費者ニーズの多様化・消費者の外食化・衛生管理問題など、食品に携わる企業は多くの問題点に直面している。しかしそのような中でも、米屋は創業者諸岡長蔵の意志を受け継ぎ、時代に応じた挑戦をすることでいつの時代も消費者に受け入れられる企業であろう。

< 米屋株式会社 >

創業: 明治32年4月
住所: 千葉県成田市上町500番地
電話: 0476-22-1211

成田山表参道 なごみの米屋
URL: http://www.nagomi-yoneya.co.jp/

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