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Alt=第7回老舗訪問記 千葉県習志野市 「戦後の大火災」を乗り越えて

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< あとがき >


衛生と環境を守るプロ

衛生と環境を守るプロ1
衛生と環境を守るプロ1

イカリ消毒の社名は、1959(昭和34)年の設立当初、漢字表記の「錨消毒」であった。設立した当時は主に船舶の害虫駆除を行っていたため、船の「錨」が社名に使われたのである。元々は病害虫等の駆除から始まったイカリ消毒の活動は、防虫・防そ・防菌といった予防の領域へと広がっていき、今では様々な企業や団体の衛生・環境のコンサルタントを手掛けている。

衛生と環境を守るプロ2
衛生と環境を守るプロ2

イカリ消毒の主な業務はネズミ・ハエ類退治等の「防そ・防虫・防菌・防臭・洗浄を中心とした環境保健サービス」、残留農薬分析や異物混入対策等の「衛生に関する検査・環境アセスメント」「衛生・環境に関する、企業や団体を対象としたコンサルティング」「衛生商品・技術の開発販売」である。『環境文化の創造』を目指した企業活動を行っており、そのスタンスは「美しい街づくりを願い、環境新時代に『健康・環境・安全』の両立をもたらす」というものになっている。



「火災による社員の死亡」から得た教訓

「火災による社員の死亡」から得た教訓
「火災による社員の死亡」から得た教訓

イカリ消毒にとって重大な転機となったのは、1963(昭和38)年にSデパートで起きた大火災であった。これはイカリ消毒によるビル消毒作業の最中に起きたもので、社員1名を含む7名の人命が失われた。火災の原因は作業を行っていた青年が吸ったタバコの薬剤への引火だったという。

「当時、一緒に働いていた兄・弟と共に、一生かけてお詫びしなければと思いました」 尊い人命が自らの会社の不祥事で失われてしまっていたことに、深く思いつめていたという黒澤眞次社長(現・代表取締役会長)。この火災をきっかけに、15名いた従業員が半分の7名にまで減ってしまっていたという。
しかし、Sデパートの店長を務めていたSグループのオーナーから黒澤社長は人柄を見込まれたのだろう。「二度と事故を起こさない会社を作って欲しい」と逆に励まされることになる。意を受けて黒澤社長は「死んだつもりで社会に貢献する企業を作ること」を決意したのであった。これをきっかけに、イカリ消毒は「専門家集団の育成」が推進されるようになった。

自らを高め続ける「専門家集団」

自らを高め続ける「専門家集団」
自らを高め続ける「専門家集団」

Sデパートでの火災を通じて、イカリ消毒が、まず取り組んだのは「専門家集団の育成」であった。本来、可燃物を業務用に使用する際には「危険物取扱主任者」という資格が必要である。ビル消毒であっても薬剤が可燃性であれば、その資格は必要になってくる。事故をおこすまでは、このような資格のことも特に重要であると意識していなかった。
しかしこの火災を機に、黒澤社長みずから自身が危険物取扱主任者の資格を取得し、その後専門的な資格を率先して取得するようになる。現在、黒澤社長は国家資格・民間資格合わせて80種類以上の資格を取得。イカリ消毒全体では一人平均7種類の資格、博士号取得者は(農学・医学・理学・獣医学)13名に至る。

このように、イカリ消毒は多方面の専門的な知識を持った人材を抱える「専門家集団」として成長したのである。また、会社を挙げて資格取得を奨励しサポート制度が整備されることで、専門家集団としての質の維持が図られている。

専門家集団を育成することの効果について黒澤社長は「お客さんからの信頼を得られるようになりました。きっといい仕事をしてくれる、と考えて頂けるようになり、様々な相談、依頼も増え、それに合わせて拠点も増えて行きました。また、お客さんの依頼に対して新しい目線ができて、先進的なサービスを提供できるようになりました。さらに、資格をとるために楽しみながら自らを高め続けることで、社員自身の人生が豊かになり、自分に自信が持てるようになっているとも思っています」と熱く語る。資格取得が会社のためにも、社員のためにもなっているのである。

専門家集団であることへの自負

専門家集団であることへの自負1
専門家集団であることへの自負1

イカリ消毒が専門家集団であることをあらわす例として、イカリ消毒の業務である食品・医療品の混入異物検査の例を挙げてみよう。イカリ消毒では1日100件以上の混入異物検査を行っているが、そのための基準は国で定められたものはなく、イカリ消毒がトップランナーとして、オリジナルの基準を設けている。その現場について、ある職員は「この分野は職人的技量が求められている分野であり、他の企業がマネをしようとしてできるものではないと思います」と話す。

また、設備の面でも、専門家集団の名に恥じないだけのものが備えられている。イカリ消毒とNPO法人バイオメディカルサイエンス研究会(Bio-Medical Science Association 略してBMSA)とが共同で運営する研究施設を見学した。そこではウイルスの試験、確認を行う設備を持ち、その設備を用いた受託試験のエピソードを施設の研究者に聞いた。

専門家集団であることへの自負2
専門家集団であることへの自負2

「ある電機メーカーからの依頼で、この設備を使いました。そのメーカーからは、『湿度が30%の時と40%の時で、空気中のウイルスが増えるかどうかを調べて欲しい』という依頼を頂きました。というのは日本のエアコンは、湿度を40%以上に保つように決められていますが、もしも湿度設定を30%まで下げられるのならば、それが省エネにつながるとことになります。そこで、湿度設定を下げた時の影響を調べて欲しい、ということを依頼されたのです。
しかし実験の結果、湿度が30%の時は、40%の時と比べウイルスがかなり増えてしまうということが分かりました。依頼された企業の方には残念ながらエアコンの湿度設定は変えるべきではない、ということを、実験の結果を基にお伝えしなければなりませんでした」

このようにイカリ消毒は、環境・衛生のプロの名にふさわしいだけの設備を持つがゆえに、様々な企業・団体に科学的な根拠に基づいた助言を行えるのである。専門的でハイレベルな人材・設備を確保することで、イカリ消毒は質の高い「専門家集団」として成り立っているのである。私たちの清潔で衛生的な生活環境も、イカリ消毒のような企業の活躍に支えられているということができるだろう。

社会に生かされ、社会に役に立つ企業へ

社会に生かされ、社会に役に立つ企業へ
社会に生かされ、社会に役に立つ企業へ

イカリ消毒では、「社会に貢献する企業」としてCSR活動(企業の社会的責任を果たすための活動)を積極的に行っている。イカリ消毒にとって転機になった火災で、百貨店のオーナーから受けた恩への感謝の気持ちから、「社会に生かされ、社会に役に立つ企業への道」を歩むことを決意したのである。
例を挙げれば、まず「環境文化創造研究所」を創設して「健康と環境」をテーマに社会貢献のための研究・情報発信に取り組んでいる。また美しい街づくり・さくらふるさと植樹と称して桜の苗木30万本を植樹している。これは、桜を公害のバロメーターとすること(公害があれば桜は咲かない)、CO2削減を目指すこと、等を目的に行われている。さらに、映像や出版による社会教育活動を行っている。

以上のように、イカリ消毒の全ての企業活動の根底には、大火災で得た教訓が活かされているのである。今後も、この教訓は守り続けられていくのだろう。

あとがき

失敗を乗り越える強さを持つ

千葉大学3年 村岡宏晃
失敗を乗り越える強さを持つ1失敗を乗り越える強さを持つ1
失敗を乗り越える強さを持つ1
失敗を乗り越える強さを持つ2失敗を乗り越える強さを持つ2
失敗を乗り越える強さを持つ2

このインタビューをさせて頂いたころには、大学生活も残すところあと1年近くとなっていた。私は小学校教員を目指しているため就職活動はしていないが、「社会に出て働く」ということを真剣に考えなければならない時期であることは確かだった。
そんな折、「社長の話が聞ける!」ということで今回のインタビューに飛びついたのだった。

お話を伺っていて印象的だったのが、話が「失敗談」から始まるところである。それも生半可な失敗ではなく、歴史に残るような失敗である。火災事故がイカリ消毒の重大な転機だったとはいえ、いきなりその話から入ってこられるとは思わなかった。
話の始めくらい華々しい功績などを語って、その後に失敗の話を少々混ぜればいいのではないか、などふと思ってみたり。
しかし「失敗の教訓を大切にする姿勢」こそが、イカリ消毒が今の規模まで成長した秘訣なのだろうとも感じた。失敗した話など、自分からしたがる人はそうはいないだろう。それが大きな失敗だったらなおさらだ。しかし、失敗を踏まえてそれを改善していかなければ成長はできないということも、間違いない事実である。

イカリ消毒は失敗に対してこれ以上ないくらいに真摯に向き合ったからこそ、それに見合うだけの強みを得ることが出来たのだろうと感じる。

このように考えていくと、今の若者に必要なのは、年上の世代の方々の「失敗談」を聞くことなのではないかと思う。その時その人は、失敗した時に何を感じ、どれだけ打ちのめされ、どうそれを乗り越え、今に至っているのか。そういった話から得られるものは、若者にとって計り知れないものだと思う。

そのような訳で、私が小学校教員になれたら、失敗談も子どもに率直に語れるようでありたいと思う。子どもに失敗を話すのは勇気のいることも多いとは思う。しかし、黒澤社長のように、失敗を乗り越えて強くなれる人になりたいから、失敗を話せる人でありたい。

< イカリ消毒株式会社 >

住所: 東京都新宿区新宿4-3-25(本社)
電話: 03-3356-6191(代表)
創業: 1959年(昭和34年)6月
URL: http://www.ikari.co.jp/

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